小児科医からこれだけは言わせて

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小児総合医療センターで摂食障害の話をきいてきたのでまとめてみました。

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こんにちは、都立小児総合医療センターで摂食障害の治療に関しての講演会を聞いてきたので、今回はそのまとめをしてみました。摂食障害のなかでも、主に拒食症についての話です。

拒食症の治療に関しては自分で治療にあたったことがなく、今までで聞いたことのない治療内容だったので、シェアさせていただきます。

演者は都立小児総合医療センターの心療内科医長の深井先生でした。

衝撃的だったことは、拒食症の治療を、ギリギリまで(BMI11まで)外来で診るという点。患者の同意を得ない医療保護入院ではなく、本人同意の自由入院を選択するという点。そして、定常体重療法という、患者の希望がなければ配膳をせず、中心静脈栄養(点滴)での水分と栄養補充を行い、入院中は体重を増やさないことを最初に約束するという点です。

拒食症の治療で経口摂取を勧めない、とは学生のときに習った知識とは違うものだったので、非常に驚きました。

ではまず一般的な話からまとめていきます。

摂食障害

食行動の異常を主症状とする行動症候群(ICD-10の定義)であり、神経性無食欲症と神経性大食症に大別されます。

疫学的には10-20台の女性に多く、男女比は1:10、近年増加傾向にあると言われています。

一般的に家族の介入が難しいとされます。

 

深井先生は、拒食症とは、心の行き詰まりをダイエットの達成感という偽りの満足感でごまかす疾患です、と述べられていました。

痩せていることは崇高であり、それにより自分の価値が高まるという考え。

食事制限や過活動により、「体重」というわかりやすい数字で進捗状況を把握できるのもポイントと考えられます。

 

病型分類

小児心身医学会ワーキンググループより、病型により、14の種類に分けられています。

高度な痩せを来たる6つの分類のみ紹介します。

①神経性やせ症(制限型)

痩せたい、太りたくないため、食事を摂らず過度な運動をする。これが全体の7割を占めるそうです。

②神経性やせ症(むちゃ食い/排出型)

この病型では太りたくないものの、食欲を抑えられず、食事を採ったあとに自発的に嘔吐をする、下剤を乱用します。小児では頻度は少ないそうです。

③食物回避性情緒障害

痩せ目的ではないものの、食事をしたくなくなるという経過です。腹痛、王騎も出現し、食事が進まなくなります。

④うつ状態による食欲低下

食欲以外の意欲も低下し、抑うつ状態になります。

⑤機能性嚥下障害

食事が喉に詰まるのを恐れて食事を取れなくなってしまいます。

⑥機能性嘔吐症

心理的ストレスに伴い、意図的ではなく、吐いてしまいます。

 

上記のものでは入院が必要となる高度な痩せをきたします。

 

入院治療における身体面の関門

痩せに伴う二次的な変化により、意志とは関係なく摂食が困難となっている場合が多いです。

再栄養症候群横紋筋融解症候群という病態に陥ることがあるため、食事の開始量はごくわずかなところから開始していきます。

・定常体重療法

心療内科での入院に関してはBMI11以下、AST>200、ALT>300の肝機能異常、CK>400の項目のいずれかを認めた場合に検討するとのことです。

 

精神科病棟ではなく、小児科病棟で、本人の同意のもと入院します。

 

退院目標は体重増加ではなく、本人の心理的成長・変化とします。

 

方針:脱水を補正して、本人の配膳希望を待ちます。本人の訴えが「お腹が空いてきた」では配膳せず、「食事を出してほしい」に変わってから配膳を開始します。

 

当初は脱水の補正のみを行います。食事量、体重測定による一喜一憂から離れ、本題である心理的課題である、主体性の確立に焦点を置きます。

食事を摂らなくても点滴(中心静脈栄養)でカロリーと必要なビタミン、水分を投与し、体重を一定に保ちます。食事量、体重で患者と対峙するのではなく、治療同盟を構築します。

 

偽りの自己コントロールを奪うと、寂しさと退屈さをきっかけに情緒面の傷つきや不安を認知させることができるそうです。

点滴をすることで循環血液量が増加し、腸管機能が回復します。徐々に腸管が動き、「食べたい」という本人の自発的要求が出てきたところで少量ずつ配膳を開始します。食事でのカロリーに合わせて点滴を減らし、1400kcalを経口摂取できたら帰宅します。

 

まとめ

要するに、点滴で死を選ばせないが、辛いまま食べて生きることも強いないという治療を行います。

 

この治療がうまくいけば退院時には入院時とほとんど変わらない体重であったとしても退院後に体重増加が望めるそうです。

深井先生は「食べるようになることを治療目的としない」というスタンスを心がけているとのことです。患者の体重の自己コントロールという達成感を引き剥がそうとすれば治療抵抗性をきたし、入院拒否や輸液の自己抜去、無断離院をきたしやすいとのことです。体重維持のため、最低必要量に不足する分を輸液や経管栄養で補うという定常体重療法が患者の自己成長力を期待でき、望ましい転帰となります。

 

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どうぞよろしくお願い申し上げます。
小児科医あきらでした。

2019/07/15

 

参考文献

精神科レジデントハンドブック 第2版

特集 小児科医が担う思春期医療 心理的問題 摂食障害 深井善光