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下痢と嘔吐が辛そう!何を目安に受診すべき?【ノロウイルス】【ロタウイルス】

こんにちは、アキラです。

お久しぶりです。

 

今回は日本において冬に流行するウイルス性胃腸炎の原因の多くの割合を占めるロタウイルス、ノロウイルスに関して記載していこうと思います。

ロタウイルス、ノロウイルス共に急性胃腸炎をきたします。

まずは急性胃腸炎を疑ったときに、受診したほうが良いと思われる徴候をご確認ください。

 

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これら項目に該当する場合、急性胃腸炎に続発する脱水をきたしている可能性があります。医師の診療を受け、適切な対応を受けることが望ましいと思われます。

また、下記の項目に該当する場合には急性胃腸炎ではなく、別の疾患の可能性もあります。こちらの場合も速やかに医療機関の受診をおすすめいたします。 

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小児急性胃腸炎診療ガイドライン 2017 年版より改変

 

いつ頃流行するの?

ノロウイルスは11月から3月に、ロタウイルスは2月から4月頃に流行すると言われています。しばしば大流行を引き起こすため、感染対策に留意する必要があります。

 

以降はそれぞれの疾患に関してまとめていきます。

 

・ノロウイルス感染症

予防について

ノロウイルスは一本鎖RNAウイルスであり、このタイプのウイルスはアルコールで除菌不可能です。食中毒として集団感染を引き起こすこともあり、汚染された二枚貝やウイルス保有の調理者による食材汚染が感染の原因となります。

感染者の便1gにつき、10^8~10^12個と大量に含まれますが、このうちウイルス100個でも別の人の体内に入れば感染が成立すると言われています。感染経路としては経口感染(食中毒、糞口感染)、飛沫感染があり、殺菌するためにはアルコールではなく、次亜塩素酸という消毒液が必要ですが、十分な流水と石鹸での手洗いで菌を洗い流すことは可能です。

ノロウイルスは遺伝子変異が発生しやすく、組織培養が困難であるという背景から、ワクチン開発が困難であり、実用化には至っていません。

下痢嘔吐症状があるお子さんとの接触がある場合には十分な手洗いと、ノロウイルス感染をきたすような二枚貝の生食などは控えることが大事です。

 

感染後の経過に関して

12-48時間の潜伏期間を経て突然の嘔吐で発症することが多いです。他に嘔気、下痢、腹痛を示し、発熱、倦怠感、頭痛、筋肉痛、悪寒を伴うことが多いです。

基本的には特別な治療を要することなく1−3日程度で回復しますが、乳幼児、免疫不全の患者さんは症状が遷延したりや重篤化します。

また、下痢症状改善後も3日程度感染力が残存するため、十分な感染対策を行う必要があります。

 

・ロタウイルス感染症 

予防について

ロタウイルスは、二本鎖RNAウイルスであり、こちらもアルコール除菌はできません。

ノロウイルスと同じように経口・飛沫感染し、感染者の便1gにつき10^10~10^13と多量のウイルスがおり、10-100個のウイルスにより感染が成立してしまいます。

ロタウイルス感染症は母親からの移行免疫があるため、新生児期の感染は稀ですが、6ヶ月から2歳の初感染が多く、5歳までにはほぼ100%のお子さんで感染の既往があると言われています。

ロタウイルスに対してはロタウイルスワクチンが非常に有用です。ロタウイルス感染全体の80%、重症ロタウイルス感染症の95%を予防することができます。有効性は高いものの、それに伴って価格が高かったこともあり、なかなか定期接種に移行することができませんでした。しかし、令和2年8月出生のお子さんからは定期での接種が可能となることが決定しました。それまでに出生されたお子さんに関しては費用が発生します。完全に自己負担でワクチン接種する場合、およそ2-3万円の接種費用がかかります。

 

感染後の経過に関して

2-4日の潜伏期間の後、発熱と嘔吐が出現します。ついで水様性下痢が1-2週間続き、自然に治まります。白やクリームの便色であることが特徴ですが、普通の茶色い便であることもあります。他のウイルス性胃腸炎より重篤化しやすく、急性胃腸炎で入院する約半数がロタウイルス感染症であると言われています。

また、合併する症状として、けいれんや脳症、心筋炎、肝炎、急性腎不全などを生じることがあります。

 

治療

ノロウイルス、ロタウイルスだけでなく、その他も含めたウイルス性胃腸炎に対して、特別な治療はありません。脱水を生じないようにすること、発熱に対して解熱を試みるなど、対症療法(出現した症状を軽快させるための治療)しかない状況です。

市販のOS-1をごく少量ずつ(5mL程度) 5分ごとに飲ませるなどすることで脱水を防ぐことが大切になってきます。スポーツドリンクはナトリウム濃度が低く作られており、糖濃度も高く、あまり適切であるとは言えません。

体重が普段と比べて9%以上も減少する場合には点滴が必要となります。

最初に示した脱水を疑わせる項目に当てはまる場合には医療機関を受診する必要がある状態であると思われます。胃腸炎の際には急激な症状の進行が予測されるため、早めの受診をお勧めします。救急相談センター(♯7119)にコールすることで受診が必要か否かに関してアドバイスを受けることができますので、夜間現状受診するべきか判断できない場合には利用することも検討してみてください。

 

受診や相談をする際には、

✓いつ頃からどんな症状が出ているか

✓どの程度の頻度で嘔吐下痢症状があるか  

上記の内容を伝えていただければスムーズに診療が進むと思われます。

 

■文献

佐々木美香, 佐々木朋子,  米沢 俊一: 各 論 (4)腸管ノロウイルス,ロタウイルス感染症 ─ 小児における診療の注意点 INTESTINE volume 23, number 2, 2019.

五十嵐 隆(編集):小児科診療ガイドライン-最新の診療指針-第3版 p.81-84 2016

ノロウイルス感染症とは (国立感染症研究所: 令和2年12月26日)

ロタウイルス感染性胃腸炎とは (厚生労働省 : 令和2年12月26日)