足に紫色の内出血?腹痛?関節痛?IgA血管炎(ヘノッホ・シェーンライン紫斑病)について
こんにちは、小児科医あきらです。
今回はIgA血管炎について書いていきます。
以前はアナフィラクトイド紫斑病と呼ばれていました。へノッホシェーライン紫斑病と言われたりもしますが、実際には同じ疾患であり、今は「IgA血管炎」と呼ぶのが一般的です。
先日日本新生児成育医学会主催の教育セミナーに参加し、そこである先生が、「病気を知っているということは、①疫学、②病態、③治療、④予後について知っているということだ」とおっしゃっており、今回、これら項目について順番にお話していこうと思います。
①疫学
小児では最も頻度の高い血管炎で、発症のピークは4~7歳と言われています。
男児にやや多い傾向にみられ、夏の時期は少ないとされています。
約半分の症例で感冒症状が先行します。他にもワクチン接種が発症のきっかけとなることもあります。
発症率は年間10万人あたり10-20人程度です。
②病態
IgA血管炎の病態は、IgAと呼ばれる、体の免疫を保つためのグロブリンという蛋白が沈着することを伴う免疫複合体血管炎です。
何らかの免疫学的要因が関与していると言われています。しかし、詳細な原因は現時点で不明です。
主な症状は皮疹・関節症状・腹痛です。それらを三主徴と言われます。しかし、必ずしも全部の症状が出現するわけではありません。
診断基準としては、「触知可能な紫斑を必須とし、その他にびまん性腹痛、急性関節炎、腎障害(血尿や蛋白尿)、および皮膚生検でのIgA優位の沈着の四項目中一つ以上を認めるもの」とされています。
皮疹は通常、紅斑と呼ばれる赤っぽい斑点が出現し、徐々に紫色に変化します。主に両側下肢〜臀部に出現しこれを紫斑と呼びます。 皮膚症状としてはその他にも顔面や頭部などに限局的浮腫がみられることもあります。
60-80% で関節痛、関節腫脹がみられ、60-70%に腹部症状がみられ、腸管壁の浮腫やびらんが出現して、腹痛、下血、嘔吐、吐血などの症状をきたします。一部の症例で腸重積や腸穿孔など外科的治療を必要とする場合もあります。20-60%に腎症状が出現します。血尿が出てすぐに良くなる子もいれば、急速進行性腎炎となり、治療に数ヶ月要する場合もあります。
腎炎となった場合、2~5%が末期腎不全に至ると言われています。そのため、治療終了後、最低でも6か月は外来受診していただき、尿検査を継続します。
③治療
原因ははっきりしないと先ほど記載しましたが、先行感染がきっかけとなることがあり、溶連菌感染が先行している場合には抗菌薬投与により除菌を行います。関連していない場合には基本的には安静・非ステロイド性消炎鎮痛剤を使用して対応します。
腹痛が強い場合には入院で絶食として腸管の安静を図ります。下血してしまったりする場合も同じく入院適応となります。腹痛症状に対しては副腎皮質ステロイド焼くを使用すると速やかに奏功する場合が多いです。
再発を繰り返したり、難治性の場合で、血液の中の凝固第ⅩⅢ因子が90%を下回った場合には同因子製剤を使用する場合もあります。
腎炎に関しては血尿だけならしばらく様子をみます。蛋白尿も続くときには抗血小板薬を使用して対応します。
高度な蛋白尿があり、重症と判断した場合には腎生検と呼ばれる、背中から針を刺して腎臓の組織を採取し、細かい組織を評価します。その組織をみて重症度を判断し、多剤併用療法や、ステロイドの大量投与などを考慮します。
腎障害が出現した場合には小児腎臓の専門の医師に相談する必要があるため、市中病院では対応できず、大きな病院へ紹介となることもあります。
④予後
いろいろと治療に関して記載しましたが、一般的には予後良好で、IgA血管炎での死亡率は1%未満です。
三主徴に関しては、多くは二か月以内に自然寛解するものの、30%で再発します。再発は初回発症時から4か月以内に起こることが多いです。
まとめ
百日咳の診断・治療について
こんにちは、小児科医あきらです。
今日は百日咳についてお話します。
百日咳という名前は聞いたことはあるかもしれませんが、実際に診断に至っている人からの話を聞く機会は少なく、どんな病気なのかについて知っている方は少ないのではないでしょうか。
ガイドラインの現状
百日咳は百日咳菌(Bordetella petussis)による気道感染症です。
現在はワクチン接種により激減しています。四種混合ワクチンのうち一つがこの菌への耐性を目指すものです。ちなみに四種混合の内容は、ジフテリア(D)、百日せき(P)、破傷風(T)、ポリオ(IPV)の4種類です。
ワクチン未摂取の乳児が罹患すると、無呼吸や痙攣を合併して重篤化することがあります。
ワクチン接種している人でも経年低下のため、感染リスクが増加し、症状は長引く咳であるため、診断が遅れて家族への感染をきたす場合があります。
また、母親の抗体価低下は新生児の感染リスクをあげます。
現在は感染者のうち半分以上は成人が半分以上を占めるようになってきています。大学などの施設で集団発生がみられることもあります。
四種混合ワクチンは定期接種であり、幸いなことに接種率は高いですが、未成年の感染者のなかでは、0才での感染が最も高いと言われています。
どんな病気か
百日咳菌が気道粘膜にくっつくと、そこで増殖します。菌からは百日咳毒素が放出され、その毒素により特有の症状をきたします。
7-10日の潜伏期の後、非特異的な風邪症状が1-2周間続き、その後典型的な激しい咳込み発作が見られる痙咳期(2-4週間)続きます。乾いた咳ノアと、顔が真っ赤になるほどの連続する咳き込み(staccato)、咳き込み後、息を吸い込むときに増えのような音が出る(whooping)、それを何度も繰り返す(reprise)、というのが特徴です。
最初にお伝えしたように乳児には無呼吸や痙攣がみられることもあり、子宮の診断と入院治療が必要です。
母親からの移行抗体が1か月で消失し、免疫のない家族内接触者の80%は罹患するとも言われています。
先程述べたような咳症状がある場合には百日咳の可能性も考慮しながら診療しています。
診断はどうするか
臨床症状:14日以上の咳
①発作性の咳込み②whooping ③咳嗽後の嘔吐 のうち1つ
実験室的診断:百日咳の分離(鼻咽頭拭い液の培養)、核酸増幅法(LAMP法)、血清診断 です。
つまりは症状と採血結果で診断します。
治療はどうするか
抗菌薬を使用しますが、咳がひどくなってからでは症状出現期間を短縮することはできません。なぜなら原因が百日咳菌ではなく、菌が出す毒素が症状の原因だからです。ただ、排菌はなくなるため、蔓延防止のためには治療を行う必要があります。
エリスロマイシン、クラリスロマイシンなどの抗菌薬内服で治療します。
また、赤ちゃんでの重症例では毒素の中和目的にガンマグロブリンと呼ばれる血液製剤を使用することもあります。
補助療法として、脱水に対しては点滴、酸素化の悪化に対しては酸素投与など実施します。
外来での加療では、抗菌薬に加えて鎮咳去痰薬を内服します。
予防
何より、ワクチン接種が予防となります。赤ちゃんのワクチンの通知が来たら早めにかかりつけの小児科医を受診し、ワクチンの接種を進めていってください。赤ちゃんの重篤な感染症を防ぐためにもワクチン接種は重要となってきます。
アメリカ小児科学会では、感染管理法として、患者との接種者でDPTワクチン(3種混合)1-2回接種者は追加接種を実施し、家族内や保育施設内の濃厚接触者はエリスロマイシンを14日間予防的に内服し、咳嗽が出始めたら培養検体摂取し抗菌薬を内服することを推奨しています。
登校基準
診断に至ったら、特有の咳が消失するまで出席停止となります。ただし、病状により、伝染のおそれが無いと判断されたときにはこの限りではない、との記載もあります。診断された先生にいつから学校に行ってもいいかを必ず確認してください。
最後に
口の中に白いかすが見える… 鵞口瘡(口腔カンジダ症)に関して
こんばんは、小児科医あきらです。今回は赤ちゃんの口の中にみられることがある「鵞口瘡(口腔カンジダ症)」についてまとめていきます。
はじめに
赤ちゃんの口の中に白いものがついているときは、鵞口瘡かミルクのかすの付着であることが多いです。
ミルクのかすはこすれば落ちます。しかし、鵞口瘡である場合こすっても取れません。
通常は無症状ですが、哺乳量低下を訴えて来院される方もいらっしゃいます。(昨日は「不機嫌で泣き止まない」という主訴で来院された2ヶ月の赤ちゃんが鵞口瘡でした。)
では診断、治療についてお示しましょう。
診断のポイント
ミルクのかすの付着に関してはもちろんですが、治療にあたっても改善が見られない場合には、先天性免疫不全も考慮して精査を行っていく必要があります。
抗菌薬の長期投与や、ステロイド薬の使用により鵞口瘡のリスクが増えるため、薬剤の使用についても確認します。
まずは舌圧子と呼ばれる、喉を見るときに用いる医療器具で頬や軟口蓋についている白斑をこすってみます。それで取れないことを確認し、鵞口瘡の暫定診断とします。
一部の症例では発熱や胃腸症状を起こし,鼠径部,殿部,そのほかの身体部位に波及することもあります。
治療
治療はシンプルに抗真菌薬シロップの内服です。外来ではファンギゾンシロップを1日2−4回、5日間の指示とします。この薬は消化管から吸収されないので、過量投与の心配は要りません。
哺乳瓶や乳首の消毒が十分に行うことは再発や悪化の予防となります。哺乳瓶はこまめに熱湯消毒をするようにしてください。母親の乳首に同じような白班が見られる場合にはカンジダの感染が疑われます。乳首に抗真菌薬の外用をすることで治療できるため、皮膚科への受診をおすすめします。
先程も記載したとおり、治療反応性が不良の場合には先天性免疫不全症である可能性もあるため、精査ができる専門施設への受診が必要となります。クリニックでの治療に反応しない場合には大きな病院へ紹介受診となることもあります。
予防
新生児期の発症は経産道感染がほとんどなので、 妊産婦のカンジダ症を治療して感染を予防することが最善です。
まとめ
鵞口瘡は真菌(カビ)の感染症です。抗真菌薬の使用で軽快しますので、しっかりとお薬を使用して経過を追ってください。
哺乳瓶はしっかり消毒し、お母さんは乳首に感染がないかを確認してください。
口の中に入れてよくなめているものがあるなら、消毒するかなめさせるのをやめていただくほうが望ましいです。
以上が鵞口瘡のまとめとなります。
赤ちゃんが生まれた!元気そうだけど泣くとおへそが膨らむのが気になる…!臍ヘルニアについて
こんばんは、小児科医あきらです。
最近は学会発表などの準備なども診療と並行して進めなければならない状態で、更新頻度が落ちてしまっています。申し訳ありません。
日々の診療で保護者の皆さんに、「これ、知っていただけたら子どもたちのためになるかな」という内容をまとめはじめて、現在30の記事を投稿してきました。
これからも「見やすく、わかりやすく、シンプルな」内容を目指して記事を書いていこうと思いますので、是非ご覧になっていただけたらと思います。
今日は乳児臍ヘルニアに関して書いていきます。
何だそれは、とお思いかもしれませんが、いわゆるでべそと呼ばれるものです。
臍ヘルニアとは
臍帯脱落後の臍輪閉鎖遅延が原因と言われています。ヘルニア嚢と言われる、膨らみの部分は腹膜と呼ばれる、腸管に付随する組織です。ヘルニア門から脱出したヘルニア嚢は皮膚に接しています。 用手圧迫で縮小し、脱出腸管は腹腔内に還納されます。お腹にヘルニア門を触知することができ、腹圧が上がる(泣いたり咳をしたりする)と再度ヘルニアの膨隆を認めます。
気をつけなければならないその他の病気
尿膜管遺残や、臍腸管遺残嚢胞、細部腫瘤(血管腫)など、臍ヘルニアと鑑別しなければならない疾患があります。臍から膿が出てくるとか、押してもヘルニア嚢が腹腔内に戻らない、などの状態であれば、なるべく早く小児科もしくは小児外科の外来を受診してください。
実際どのくらいの赤ちゃんに「でべそ」があるの?
生まれたお子さんのおへそが膨らんでいたり、普段は普通のおへそでも泣いたりしたときに膨らんできたりすると不安になってしまうかもしれません。
しかし、実際にはそこまでに気にする必要はありません。
今日の診断指診第7版にはこのように記載があります。
臍ヘルニアは、臍帯脱落のあと、通常2~3週ごろから発生することが多い。新生児の2~3割にみられる。低出生体重児ではその頻度は7~8割に及ぶ。
-今日の診断指診第7版
実は結構な頻度で赤ちゃんには臍ヘルニアがあります。
治療したほうがいいの?
1歳までに80%、2歳までに90%が自然治癒します。そのため、この年齢までは原則、経過観察とします。
-今日の診断指診第7版
小児外科の文献をみると、いくつかの文献ではスポンジなどによる臍部圧迫療法も行われ、良好な経過を得た、という報告もありますが、現時点で高いエビデンスが得られてはいません。
UpToDateのCare of the umbilicus and management of umbilical disordersの項目を見ると、
閉塞を促進するための臍ヘルニアの「圧迫療法」についての民間伝承がありますが、この方法は皮膚合併症を引き起こす可能性があり、実行すべきではありません。
とまで記載があります。
圧迫療法を民間伝承(folklore)と記載してありました。
これら記載からも、圧迫療法は一般的ではないと考えられます。
UpToDateでは
少数の患者にのみ外科的介入が必要です。
との記載もあり、今日の診断指診では
2~3歳までに自然治癒が得られなかった場合、経過観察中、臍ヘルニアの絞扼、嵌頓を起こした場合(臍ヘルニアは押すと腹腔内に戻るのですが、それが戻らず、固くなったり赤くなったり痛みを伴うようになった場合)、結合組織脆弱な基礎疾患がある場合には手術適応
と記載があります。しかし、保護者の皆さんからみて赤ちゃんの外見に関しては大きな問題です。
「自然に治るとは言われているけど、実際どうなの?」という疑問はあると思います。上記の項目に当てはまらない場合でも、まずは気軽にかかりつけの小児科の先生や定期検診の担当医師に相談してみてください。きっと具体的なアドバイスをしてくれるはずです。
ここまで読んでくださって、ありがとうございます。
これからもシンプルでわかりやすい医療情報のシェアを続けていきます。
もしよければ読者登録・ブックマーク・ブログのシェアいただけると本当に嬉しいです。
どうぞよろしくお願い申し上げます。
小児科医あきらでした。
参考文献
今日の診断指診第7版
臍ヘルニアの診断と治療(圧迫療法も含めて) -小児外科 Vol. 50 No. 8,2018‒8
スポンジによる圧迫 -小児外科 Vol. 50 No. 4,2018‒4
Care of the umbilicus and management of umbilical disorders - UpToDate蜂に刺された!🐝どうしよう?ハチによる虫刺症について【小児科医の提言】
受診の目安
救急車を呼ぶ必要がある場合
-
全身に発疹が出現した
-
呼吸が浅くなる・息苦しそうにしている
-
顔色が悪くなり、ぐったりしてきた
近くのクリニックを受診させたほうがいい場合
- 痛みや赤みやかゆみは局所的であるものの、症状が強く市販の鎮痒剤で改善しない
- 掻き壊してしまって、発赤の範囲が広がってきた
ハチに刺されるとどうなる?
予防
治療
初期対応
受診後の対応
小児での虫刺されの特徴
まとめ
-
全身に発疹が出現した
-
呼吸が浅くなる・息苦しそうにしている
-
顔色が悪くなり、ぐったりしてきた
これらの症状がみられた場合には迷わず救急車を呼んでください。その判断がお子さんの命を救います。
【うんこが出ない】こどもの便秘症について
うんこの問題はとても厄介ですね。
特にうんこが出ないことは本当に辛いです。今回は、うんこが出ないこと、いわゆる便秘についてまとめを作成してみました。
本項は基本的に小児慢性機能性便秘症診療ガイドラインに沿って記載していきます。
定義
「便秘症」とは,便秘またはそれによる症状が表れ,診療や治療を必要とする場合である.便 秘は病状の期間から慢性便秘(症)と一過性便秘(症)に,原因から機能性便秘(症)と器質性便秘(症)に分類され,慢性機能性便秘症の診断基準として国際的には Rome III が使用されている.
ー小児慢性機能性便秘症診療ガイドライン
と記載があります。 RomeⅢの定義は下記のとおりですが、臨床的に「排便の頻度が少なくてお腹を痛がっていて便が固くて、、」という訴えがあれば便秘症を疑って精査します。今回まとめたガイドラインでは新生児の便秘や一過性便秘や器質的原因による 便秘は対象としていません。一過性のものではなく、持続的に便秘の症状がある患者さんに対しての記事と捉えていただければ幸いです。
小児慢性機能性便秘症診療ガイドラインより
診断
便秘症の診断では、はじめに「便秘症であるか否か」を症状・病歴・身体所見から確認し、次に便秘症をきたす基礎疾患を鑑別します。
機能性の便秘でしょう、と言われているお子さんの中に一定の割合で外科的治療が必要な基礎疾患がある子がいる場合があるため、そういった疾患が疑わしい場合には精査を行うことができる小児科もしくは小児外科に紹介となります。
病歴聴取や、身体所見から「これは精査が必要だ」と判断するために、以下の項目を評価します。
- 生後24時間以降の胎便排泄が遅れたという既往がある
- 成長障害・体重減少を認める
- 便秘に伴って慢性的に嘔吐を繰り返す
- 血便がある
- 便の回数は少ないにもかかわらず下痢便である
- 腹部が張っている
- 腹部に腫瘤を認める
- 肛門の形態、位置異常を認める
- 直腸肛門指診の異常を認める
- 脊髄疾患を示唆する神経初見と仙骨部皮膚初見を認める
これらがみられた場合には器質的疾患、つまりは外科的な疾患ある可能性を考えます。専門施設での精査をするべきかを判断していきます。当てはまらない場合にも、診察・画像検査を行い、
- 1.腹部触診で便塊を触知する
- 2.直腸指診で便塊を触知する
- 3.画像上,直腸に便塊を認める
- 4.いきんでいるがでないとの訴えがある
- 5.overflow incontinence(漏便)がある
- 6.少量の硬い便がでている
- 7.最後の排便から 5 日以上たっている
上記項目を確認します。これにより、腸内に便塞栓(fecal impaction)があるかどうかを評価します。
便の詰まりを解消し、その詰まりが生じないようにコントロールが必要となります。便塞栓がない場合でも、その後生活、排便習慣の是正、食事指導や薬物治療を考慮します。
便塞栓に対しての治療
まずはグリセリン浣腸で、直腸の便を柔らかくし、排便を促します。これにより、速やかに便塞栓が解消され、「楽になった」といってくれることが多いです。繰り返して便塞栓ができてしまう場合には、ビサコジル 炭酸水素ナトリウム+無水リン酸二水素ナトリウムなどの座薬や、酸化マグネシウム、水酸化マグネシウム、ラクツロース、ピコスルファートナトリウム、センノシドなどの下剤の内服薬を使用します。
維持療法
薬剤加療以前に、まず生活習慣に関しての指導です。食事摂取(乳児では哺乳)の全体量を見直し、年長児では無理なダイエットはしないよう に注意しましょう。
過剰な発汗による水分不足(特に乳幼児では着衣や寝汗などが過剰な場合)にも注意を要します。 朝食をとりトイレに行く時間を確保するため,夜更かし・寝坊は避けましょう。規則正しくバランスのとれた食事(食物繊維豊富な)をとり、過剰な間食は避けるようにしてください。
また、適度な運動は腸管刺激となり、排便に関してはよい影響を与えるとされます。運動量が少ない場合には適度な運動を心がけましょう。また、便意を感じても排便を我慢することが多いと便秘が悪化しやすいと考えられ、特に学童では学校で便意を感じたら我慢せずにトイレに行くようにしましょう。
ガイドラインでは、頑固な便秘症のお子さんの中に、牛乳アレルギーの関与する症例があり,通常の治療に反応しない場合,期間限定で 牛乳制限してみることが推奨されています。もし牛乳摂取を多量にしているお子さんで便秘に悩まされている場合には、牛乳制限を試してみるのもかも良いと思います。
治療期間
治療薬の減量・中止が早すぎると再発しやすく、薬物維持治療には通常 6~24 か 月を必要とします。
排便困難がなく規則的な排便が習得できても、数週間は服薬をそのまま継続し、その後数か月をかけて徐々に治療薬の減量,中止を検討します。 幼児では,排便自立ができるまでは治療を継続することが勧められています。
下記のようなフローチャートで効果を判定し、服薬の調整を行います。反応が悪ければ全身疾患、外科的疾患の精査も必要となります。
熱中症に注意しよう!【症状・診断・治療まとめ】
こんにちは、小児科医あきらです。
そろそろ最高気温の上昇がみられそうですね。今年は梅雨が長引いて憂鬱な気分でした。しかし、激烈に暑かった去年を思い出すとそれだけでぐったりしてしまいそうです。今日からはフジロックフェスが始まります。これから夏フェスなど、外でのイベントが増えてきます。運動の機会もあるでしょう。そういった環境では熱中症のリスクが高まります!今回は熱中症に関してのお話をしようと思います。
熱中症とは?
人は体温を平熱に保つために汗を書きます。 体内の水分、塩分の減少や血液の流れが滞るなどして、体温が上昇し、臓器が高温にさらされることにより発症する障害の総称を指します。
高温環境下に長時間いたとき、あるいは、その後の体調不良はすべて熱中症の可能性があります。
重篤化すると死に至る場合もあるため、夏に警戒すべき疾患の一つです。
予防法を知っていただければ防ぐことができますし、重篤化を回避し、後遺症を軽減できます。
熱中症で大切なことは何よりもまず予防です。
- 屋外では帽子を被る
- 水分をこまめに摂取する
- 直射日光の当たる場所に長時間いない
以上のことを守って外で遊ぶようにしてください。
疫学
熱中症診療ガイドライン2015には、2013年の熱中症関連の受診は、40793人(6−8月)でした。これが近年更に増加傾向にあるようです。*1
厚生労働省HP上では提携入院期間における本年度の熱中症入院患者さんの数がほぼリアルタイムで閲覧できます。
今年の夏は真夏日に至る日がほとんどなく(7月23日時点)、熱中症による入院患者数はまだ少ない状態であることがわかります。
協力医療機関における熱中症入院患者数( 7月23日 報告分)
●ここに掲載している情報(即時情報という)は、日本救急医学会・熱中症に関する委員会(委員長: 清水 敬樹 (東京都立多摩総合医療センター 救命救急センター)による「熱中症患者即日登録調査 2019」で収集した情報に基づいています。
●熱中症の発生が危惧される令和元年7月1日~9月30日の間、当該日(0時~24時)に報告された熱 中症による入院患者数等*の即時情報を、報告翌日に公表します。(なお、土日曜日分は月曜に併せて公表)
●即時情報は、協力の得られた医療機関からの任意の報告に基づくため、日々の患者数の変化の 程度、患者の年齢層の変化等の傾向の把握に使用し、他の関連情報と総合して対策を講じることが 重要です。 * 外来診療により帰宅した患者を除いた来院熱中症患者数
厚生労働省HP*2
熱中症はなぜ起こる?
高温になったときには、汗の蒸発により、気化熱が体温を下げる働きをしています。汗をかくと水分や塩分が体外に出てしまい、血液の流れが悪くなります。高温であり、多湿なところで、風が弱く、熱を発生するものが近くにある環境では、体から外気への熱放散が減少し、熱が体内にこもり、熱中症が発生しやすくなります。
どのような人が熱中症になりやすいか?
- 脱水状態にある人
- 高齢者、乳幼児
- 身体に障害のある人
- 肥満の人
- 過度の衣服を着ている人
- 普段から運動をしていない人
- 暑さに慣れていない人
- 体調が悪い人
((熱中症環境保険マニュアル2018)
以上のリストがこちらのマニュアルに挙げられています。
熱中症と気象条件
真夏日の日数が多くなったり、熱帯夜の日数が多いほど熱中症死亡数が増えます。
暑熱環境が熱中症の発症に強く影響しています。
暑さ指数(WBGD:wet bulb globe temperature)と呼ばれる熱中症予防のため、人体と外気の熱のやり取りに着目した指数があります。
WBGT(屋内)=0.7☓湿球温度+0.2☓黒球温度+0.1☓乾球温度
WBGT(屋外)=0.7☓湿球温度+0.3☓黒球温度
この指数は環境省熱中症予防情報サイトで確認できます。
この値に沿って運動強度や、日常生活における注意事項、活動の目安を決めて活動するべきです。
予防
子供の場合は特に、発汗を始めとした体温調節能力がまだ十分に発達していません。暑さを避け、体に負荷がかかるような暑い環境にいるときにはこまめに水分補給をすることが大事です。また、急激に暑いところでの遊びをさせるのではなく、日頃から適度に外遊びを励行し、暑熱順化を促進しましょう。
当たり前ですが、子どもを車の中に放置したりなど絶対にしないでください。車の中はエンジンが切れてからあっという間に高温になります。其のような環境下ではすぐに熱中症を発症し、命の危険にさらされてしまいます。
少しの間でも絶対にそのようなことはしないでください。
症状
熱中症には分類があり、Ⅰ度が軽症、Ⅱ度が中等症、Ⅲ度が重症です。
Ⅰ度
めまい・失神:立ちくらみで一時的にふらついてしまう
筋肉痛・硬直:俗に言うこむら返りです。発汗によりナトリウムが喪失することで生じます。
手足のしびれ・気分の不快もⅠ度の症状です。
Ⅱ度
熱疲労と呼ばれ、頭痛・嘔吐・倦怠感・虚脱感を生じます。いつもと様子が違う、と感じるような軽い意識障害を認めることがあります。
Ⅲ度
Ⅱ度の症状に加え、意識障害や痙攣、手足の運動障害が生じたり、高体温、肝機能、腎機能、血液凝固障害を生じます。
発症時の対応
Ⅰ度の症状があれば、すぐに涼しい場所へ移動し、体を冷やし、水分摂取をしてください。水分だけでなく、ミネラルを補給するためには経口補水液や、スポーツドリンクを飲ませてください。
衣服を脱がせて、体からの熱の放散を助けます。ベルトやネクタイ、下着は緩め、風通しを良くします。
露出させた皮膚に濡らしたタオルを当て、うちわや扇風機で扇ぐことで体を冷やします。
冷たい水や氷を首の付根の両脇や、脇の下、足の付根に当てて体を冷やします。
誰かがそばに付き添って見守り、Ⅱ度以上の症状が出てきたり、自分で水分や塩分を取れなかったり、嘔吐が出現したり、症状が改善しなければすぐに病院へ搬送します。救急隊を呼んでいる際にも体を冷やすことができるならなるべく早く冷やして挙げてください。
Ⅱ度以上の症状が出ている場合には可及的速やかに病院へ受診してください。Ⅲ度の症状があれば速やかに救急車を呼んでください。
ここまで読んでくださってありがとうございます。
これからもシンプルでわかりやすい医療情報のシェアを続けていきます。もしよければ読者登録・ブックマーク・ブログのシェアいただけると本当に嬉しいです。
どうぞよろしくお願い申し上げます。小児科医あきらでした。
参考文献
小児における熱中症 渡邉太郎 著
熱中症環境保険マニュアル2018
子どもがお腹を痛がっている。このお腹の痛みは盲腸かも? 急性虫垂炎(盲腸)を疑う症状 後編(画像診断・治療)
前回記事↓の続きです。
画像検査
それぞれの画像検査の感度(疾患のあるものを見逃さない割合)、特異度(疾患があるものを捨てない割合)
に関しての以前の報告は下記の通りでした。
超音波検査では小児患者の場合、感度88%、特異度94%,成人患者の場合感度 83%,特異度 93%と報告されています。
-*1
小児急性虫垂炎患者の腹部CT検査の感度は 94%,特異度は 95%であり,成人患者における腹部CT検査の感度および特異度はともに93%と報告されている。*2
超音波検査の診断能は高く、被爆の観点からもCTよりも超音波検査を先に実施される方が良いかと思われます。自分も外来ではまず超音波検査を実施しています。描出が困難な場合にはCT検査を実施します。必要がない場合には必ずしもCTは実施しません。
治療
超音波検査で、虫垂の腫大、壁構造の変化、腫瘤形成の有無を評価し、虫垂腫大、壁構造の変化がある場合には手術または入院して抗菌薬投与開始します。 壁構造に変化がない場合には入院もしくは外来で保存的に経過を追います。筋性防御(お腹を押したときに急激な腹痛の悪化と緊張により、腹部が緊張するという所見)を認める場合には緊急手術の適応があります。
発症から時間が経っており、腫瘤形成を認める場合には入院の上抗菌薬投与を開始し、待機的手術を予定します。
診断後も繰り返し超音波検査を実施し、増悪、改善を評価し、多くの施設では、小児科から小児外科に相談し、手術判断を行います。
退院
保存的加療で症状改善を認めた場合、身体所見だけでなく、採血検査での炎症反応の軽快を確認し、抗菌薬終了の上退院としています。その後小児外科の外来に相談し、手術療法の適応に関して相談します。
保存的加療を行った後の再発に関して
抗菌薬投与のみの治療を行った患者さんのうち、5年後の虫垂炎の累積再発率は39.1%であり、約60%の患者は治療開始から5年以内に再発には至らなかったという結果が以下の文献では明らかになっています。
低いと感じるかか高いと感じるかは患者さん次第であり、メリット・デメリットを相談しつつ、手術を実施するか否かを検討します。
最後に
以上が急性虫垂炎の診断治療のポイントです。急激な右下腹部に限局する腹痛が出現し、お腹を押して、手を放したときに痛みが増強する、そんな状態だった場合には虫垂炎の可能性が高いです。なるべく早く小児科を受診してください。
ここまで読んでくださってありがとうございます。
参考文献
小児急性胃腸炎・小児急性虫垂炎. 日本小児救急医学会ガイドライン作成委員会:診療ガイドライン.2015
内科医・小児科研修医のための小児救急治療ガイドライン 改訂第三版
小児科診療ガイドライン-最新の診療指針- 第三版
新版小児外科学 診断と治療社. 1996
臨床検査 vol.63 no.4 2019年 4月・増刊号
Doria AS, Moineddin R, Kellenberger CJ, et al:US or CT for Diagnosis of Appendicitis in Children and Adults? A Meta-Analysis. Radiology 241:83-94,2006
Salminen P, et al. JAMA; 320: 1259-1265. 2018
子どもがお腹を痛がっている。このお腹の痛みは盲腸かも? 急性虫垂炎(盲腸)を疑う症状 前編(概要・診察)
以前腹痛に関しての受診の目安に関して記事を書きましたが、最近外来で虫垂炎の患者さんが続いたので、もう一度虫垂炎に関して書いていきます。前後編です。
以前の腹痛に関して書いた記事はこちらです。↓
根治治療は小児外科領域の疾患ですが、診断と保存的加療に関しては小児科でも多く診る疾患です。外科の先生、もしご覧になって、これ違うよ、という点があればご指摘いただけるとありがたいです。
大事なことを一番始めに記載します。
- 腹部全体ではなく、右下腹部に限局した痛みがあり、咳をしたときの下腹部痛悪化「咳嗽試験」、右片足立ちでかかとをついてお腹の痛みが悪化する、「踵落とし試験」が陽性なら急性虫垂炎の可能性が高い。
- 年少児の主症状は、腹痛よりも下痢・嘔吐・食欲不振が多いため、慎重な精査が必要。
概要
大腸の入口に盲腸があります。盲腸の後内側表面から突起状に垂れ下がった細長い器官が虫垂です。虫垂内腔に閉塞が生じ、細菌増殖が起こることで虫垂に一致した部位に炎症を引き起こし、疼痛と発熱(微熱)を引き起こします。
小児の代表的な腹部急性疾患で、15人に一人は障害のうちに罹患する、と言われています。急性虫垂炎は、小児期の急性腹症(急激にお腹が痛くなる状態のこと)の代表的な疾患の一つで、大人に比べると症状の進行が早く、短時間で壊死・穿孔を引き起こしやすいと言われています。(穿孔率は15.9~34.8%)*1
根治治療としては外科治療がメインですが、内科的に保存的な治療を行うことも一般的です。
手術適応は、臨床病期と、QOL(生活の質)の観点から患者さん本人、家族との話し合いにより決めていく必要があります。
診断
最も単純に示すと、「経過を聴取し、身体所見で推定し、血液検査、超音波検査、腹部CT検査で確認する」という流れが一般的です。
典型的な臨床経過としては、
臍周囲や上腹部の痛み、ついで嘔吐が出現し、やがて右下腹部の持続痛、圧痛、筋性防御が出現する。上腹部の症状は炎症の刺激が虫垂壁にあるstretch recepterに伝わり、腸間膜の神経線維を介して第10胸椎レベルの脊髄に入るために起こる。
右下腹部に痛みが移動するのは、炎症が虫垂の漿膜までに波及し、更に壁側腹膜を刺激するものである。
-*2
以上のように文献に記載があります。
身体所見
重要な身体所見は下記のとおりです。
McBurney点:右上前腸骨棘と臍を結んだ線の外側1/3の点
Lanz点:左右の上前腸骨棘を結ぶ線分を3等分した右1/3の点)
→これら圧痛点の有無
Blumberg徴候:腹壁を用手的に徐々に圧迫し、急に解除すると疼痛が著明になる
筋性防御:軽度の触診で反射的に生じる腹壁筋の緊張
Rovsing徴候:下行結腸に沿って頭側に圧迫を加えると増悪する右下腹部痛
Rosenstein徴候:仰臥位よりも左側臥位で増強する右下腹部痛
次回は画像検査・治療に関して記載していきます。
ここまで読んでくださってありがとうございます。
自分、無給医でした。
こんばんは、小児科医あきらです。
昨日からずっとドメイン変更の設定を色々調整していましたが全然うまくいかない。もともとのアドレスへのアクセスで問題なく閲覧はできるようなので、慌てず設定していきます。
ブログを始めてから、いいテーマ・題材はないかと臨床にあたっていますがなかなかおもしろい題材に毎日遭遇するわけではないですね。以前に取り扱った内容を掘り下げることも、ニッチな内容に関して言及するのも手段の一つでしょうか。少しでも役立つ情報をシェアして、困っている親御さん、つらい症状をきたしているお子さんたちのためになれたらといいなと常々思っています。
心がけていることとしては、
・一番大事で伝えなければならないことを一番最初に書く
・特定の症候について書くなら、受診すべきタイミングはいつかを書く
です。しかし、実際には患児を診て判断しなければならないことが数多くあります。
迷ったら早めのクリニック受診をおすすめします。
Twitterをやっているので、もしよければフォローをお願いいたします。診療をしていてシェアしたい事があった際にブログ記事にするほどではないかなということはこちらにつぶやいていきます。
「小児科医からこれだけは言わせて」、とは名がついていますが、肩の力を抜いて、ただのコラムを読むようなスタンスで読んでくだされば嬉しいなと思います。
小児科医の勤務実態(医局員の場合)
今回は小児の疾患に関してはお休みにして、自分の勤務経歴でも記載しようかなと思います。
自分のような大学病院などの医局に所属する医師は基本的にその医局に関連する病院で診療や研究にあたります。今現在、僕は医局からの派遣で、都内市中病院の小児科医員として、正規の常勤医として仕事をしています。
当直は月に5~6回。時間外勤務と当直手当で基本給と同じ額程度の給料が入ります。それとは別に小児の検診や地域の準夜診療所、休日診療所の外来などの外勤(アルバイト)があり、比較的安定した所得があります。
医学部を卒業し、国家試験を突破するとまずは初期臨床研修医という研修期間に突入します。内科外科などに関わらず、必修の科を1-3か月おきに巡り、一番下っ端の研修医として働きます。各科の医師には自分の外来や先ほど記載したような外勤、自分の研究もあり、病棟にいる時間は少ないです。しかし、研修医には外来、外勤はありません。(研究に関しては個人の自由であり、興味があれば関わっていくこともできます)病棟にいる患者さんに関してひたすら勉強をして、第一線で診療にあたることができる期間です。
自分は循環器内科、脳神経内科、小児外科、膠原病内科、救急診療科、糖尿病内分泌内科、血液内科、麻酔科、精神科、産婦人科など、自分の専攻ではない科を回り、その期間での患者さんとの出会いによって、自分の医師としての最初の土台となる部分が仕上がったと思います。素晴らしい師に会い、とても良い経験ができました。
大学病院での研修であり、月に25-27万円程度の給与でした。ボーナスや当直手当、時間外手当などはありませんでいたが、研修は充実していたし、生きていくのに困ることはないし、何も文句はありませんでした。適切な給与であったと思います。雇用契約もきちんとありました。
臨床研修医が終わり、大学病院での医局員として働き始めて驚愕したのは、基本給がないということでした。
常勤として働いているにもかかわらず、常勤医という扱いにはなっていませんでした。給与がなければ生きていくことができません。医局から分与された外勤(アルバイト)を月に8回程度こなし、月に6回の当直手当(医局員ならごくわずかですが当直手当が出ました)で生活していました。
病院勤務なので、病気になってしまった場合には大学病院受診を減免することができましたが、交通費、住宅手当、ボーナスなど、そういった類のものはまったくなく、働けなくなったらオシマイみたいな状況でした。
数十年とそういった体型で漫然と変革なくそういったことが許されていたのは、「それでも生きていけるから」という理由だと思います。
実際に諸々のバイトで月に60-70万円は維持できていました。そこから諸々の雑費を引いて手取りは40-50万円程度だったと思います。しかし、時間外勤務や当直などを考慮すると実際のところ、大学病院に搾取されていたような状況にあるといっても過言ではない状況だったと思います。
毎日勤める病院からは給与ゼロで、アルバイトにでてようやくお金がもらえる生活。
自然ではないですね。そんなことを今の病院に来てから考えていたら、つい先日ニュースを眺めていたらこんなニュースがありました。
自分はまさにこの中のひとりでした。
雇用契約なく、労災保険もなかったものですから、今の病院に移ったときに、なんと素晴らしい雇用形態なんだ、と感動した覚えがあります。
今考えれば以前がおかしかっただけでした。一般世情に疎い医師を雇用契約なく使い続ける奴隷制度とも言うべきこの無休医というものが今後なくなっていくことを祈ってこの記事の締めといたします。
ここまで読んでくださってありがとうございました。今日もアルバイト、がんばります。
2019/07/21
ブログの独自ドメインを取得しました。www.akirano.workです
ご覧になってくださる皆様へご報告です。
この度、独自ドメインなるものを取得しました。
エラーが出てしまい、PCで閲覧できない状態がつづいています。。。
今後修正していきます。
ご不便おかけいたしますが、どうぞ引き続きよろしくお願い申し上げます!
小児科医あきら
2019/07/19
【ある小児科医の提言】子どもが耳を痛がっている!急性中耳炎の治療についてのまとめ
こんにちは、今回は急性中耳炎に関して記載していきます。小児急性中耳炎の診療ガイドラインが2018年に新しく改訂されていたので、その勉強がてら内容をシンプルにまとめていこうと思います。
どちらでも大丈夫です。何度も何度も中耳炎を繰り返しているお子さんの場合には耳鼻科受診をおすすめしますが、初診で耳を痛がっている場合には小児科でも耳は診れます。後に示す重症例では耳鼻科的処置が必要となる場合もあるので、そういったときには耳鼻科外来へ紹介になります。
疾患・病態
ガイドライン上は「急性に発症した中耳の感染症で、耳痛、発熱、耳漏を伴うことがある」と定義しています。
耳の構造は主に外耳・中耳・内耳に分けられ、鼓膜の向こう側で、中耳腔・耳小骨・耳管が含まれる、「中耳」に炎症が起こることで急性中耳炎となります。
上気道炎に引き続くか、あるいは伴って、細菌が鼻の奥の「耳管」と呼ばれる部分を通り、中耳に炎症が波及して発症します。小児では耳管の発達が未熟であり、大人に比べて中耳炎を引き起こしやすく、中には何度も繰り返す場合もあります。
原因となる菌としては喉に常在菌として存在することも多い肺炎球菌、インフルエンザ桿菌が最も多く、モラキセラカタラーリスも起因菌として考慮しなければなりません。
炎症が長引いたり、強かったりすると滲出性中耳炎、慢性化膿性中耳炎に移行する場合もあります。
予防
予防として、肺炎球菌ワクチン(PCV)はガイドライン上、有用とされています。(万が一、周りにワクチン恐怖症の方がいたらこっそり教えてあげてください。)
診断
直接耳鏡などの器具を用いて鼓膜を観察し、中耳貯留液や炎症性変化を確認して確定診断します。
なお、多くの小児科では耳垢の除去処置ができないことが多く、鼓膜初見が確認できない場合、耳鼻科の先生に診断と治療の必要性を相談することもあります。
ティンパノメトリーを使用すると中耳貯留液の有無を評価することができるので、ガイドライン上は推奨されています。
合併症
感音障害を引き起こす場合が多いです。耳鼻科では病変の進展度、重症度を推測するために、純音聴力検査を行う場合もあります。(もちろん言葉を話せない小児では評価できません。言葉を話せる子に限定されます。本稿のタイトルには「耳を痛がっている!」と書いてますが、言葉を話せない子はただ不機嫌なだけです。乳幼児期の発熱では耳を診ることがとても大事です)
治療
重症度に応じた治療が求められます。
項目と点数は下記の通りです。
24か月未満は3点を加算 |
鼓膜初見 | |
鼓膜発赤 | 0点:なし |
2点:ツチ骨柄あるいは鼓膜の一部の発赤 | |
4点:鼓膜全体の発赤 | |
鼓膜の膨隆 | 0点:なし |
4点:部分的な膨隆 | |
8点:鼓膜全体の膨隆 | |
耳漏 | 0点:なし |
4点:外耳道に膿汁があるか鼓膜の観察は可能 | |
8点:膿汁のため鼓膜の観察ができない |
臨床症状 | |
耳痛 | 0点:なし |
1点:痛みあり | |
2点:持続性の高度疼痛 | |
発熱 | 0点:37.5℃未満 |
1点:37.5〜38.5℃ | |
2点:38.5℃以上 | |
啼泣・不機嫌 | 0点:なし |
1点:あり |
重症度のスコアは、5点以下が軽症、6~11点が中等症、12点以上が重症の分類となります。
軽症の場合
抗菌薬を使用せず3日間経過観察し、改善がなければ内服のアモキシシリン(商品名:サワシリン・ワイドシリン)という抗菌薬を使用します。5日間で改善あれば終了しますが、改善なければ感受性を考慮し、抗菌薬変更とします。
中等症の場合
第一選択としてアモキシシリンの投与を行います。軽症のときの使用量の倍程度、保険用量よりもかなり多い量を使います。子どもに使う場合、結構な量の粉薬になり、びっくりするかもしれません。軽症例と同様に感受性を考慮し、改善がなければ別の抗菌薬に変更したり、鼓膜切開も行う場合があります。
重症例の場合
抗菌薬投与を行い、鼓膜切開ができる施設では実施を考慮します。改善があれば最低5日間の抗菌薬投与を行います。改善しない場合は中等症と同様に別の抗菌薬に変更して対応します。
- 点耳薬
点耳薬に関しては、鼓膜換気チューブの留置などで、中耳腔に薬が入るようなら使用します。鼓膜穿孔がなければ点耳薬は無効です。
- 抗ヒスタミン薬
また、よく風邪のとき小児に使用される抗ヒスタミン薬(ザイザル、アレジオン、ジルテックなど)ですが、中耳炎に対しては有効でなく、ガイドライン上は投与しないことを強く推奨されています。理由としては、抗ヒスタミン薬は、使用することのメリットがなく、眠気や活動性の低下、痙攣に対する悪影響などあり、デメリットしかないためです。
もし処方があるようなら担当医に相談してください。
- 鼻処置
鼻づまりがあるようなら鼻吸引は選択肢の一つです。実施できるなら行ったほうがいいでしょう。
- 鼓膜換気チューブ
治療を行っても反復してしまう中耳炎があります。そういった場合には鼓膜換気チューブを留置することが現在のガイドラインで推奨されています。
最後に
以上が急性中耳炎のまとめとなります。